通勤中に脳を鍛える問題解決ウォームアップ術
通勤時間を「問題解決の準備時間」に変える
日々の通勤時間は、多くのビジネスパーソンにとって移動のための時間という認識が強いかもしれません。しかし、この時間を単なる移動として消費するのではなく、脳を活性化させ、問題解決能力を高めるための「ウォームアップ時間」として捉え直すことで、仕事やプライベートにおける思考の質を向上させることが期待できます。本格的な問題解決に取り組む前に脳を準備状態にすることで、集中力や発想力を高めることができるのです。
なぜ通勤中が脳のウォームアップに適しているのか
通勤中、特に移動中に少し時間的・精神的な余裕があるタイミングは、意識的に思考を巡らせるのに適しています。脳は、集中して特定のタスクに取り組んでいる時だけでなく、リラックスしている状態や、比較的単調な作業を行っている最中にも活性化する領域があります。特に、デフォルト・モード・ネットワーク（DMN）と呼ばれる脳の領域は、過去の経験を統合したり、未来について想像したり、自己を内省したりする際に関与するとされています。通勤中のような、完全に集中しているわけではないが全く何もしていないわけでもない状態は、このDMNの働きを促し、普段意識しないようなアイデアや、問題解決のヒントが浮かびやすくなる可能性があります。
また、通勤は多くの場合、毎日繰り返されるルーティンです。この習慣の中に意図的に「脳のウォームアップ」を組み込むことで、継続的に思考力を鍛える習慣を身につけやすくなります。
通勤中に実践できる問題解決ウォームアップ術
以下に、通勤時間という限られた環境下で実践しやすい、問題解決のための脳のウォームアップ術をいくつかご紹介します。特別な道具や場所を必要とせず、手軽に取り組めるものを選んでいます。
1. 今日の「問い」を設定する
通勤の開始時、または移動中に「今日一日で解決したい小さな問題」や「今日考えるべき重要な問い」を一つ心の中で設定します。例えば、「今日の会議で〇〇の課題をどのように伝えるか？」「抱えているプロジェクトの次のステップは何が良いか？」「どうすればもっと効率的に△△の作業ができるか？」といった具体的な問いです。そして、その問いに対する答えや考えられる選択肢を、頭の中で自由に巡らせてみましょう。
ポイント: * 問いは具体的に、かつ取り組みやすいものにする。 * 必ずしも答えを出す必要はなく、様々な角度から問いについて考えるプロセス自体がウォームアップになります。
2. ブレインダンプ（簡易版）
頭の中で、今日やるべきこと、気になること、解決したい問題など、雑多に浮かんでくる思考を整理してみましょう。これは本来紙やツールを使いますが、通勤中は頭の中やスマートフォンのメモアプリで簡易的に行います。頭の中にある情報を一旦「外に出す」イメージで整理することで、何に意識を向けるべきか、何が問題の本質かをクリアにする助けとなります。
ポイント: * 批判的に考えず、思いつくままにリストアップ（心の中で）することが重要です。 * スマートフォンの音声入力機能を使えば、歩きながらや混雑した電車内でも比較的簡単に行えます。
3. 仮説思考の練習
日常の小さな疑問や出来事に対して、「もし〇〇だったら、結果はどうなるだろう？」と仮説を立てて考えてみる練習です。例えば、「もし、今日の会議で〇〇の提案を受け入れられたら、次にやるべきことは？」「もし、このサービスの価格を△△%下げたら、顧客の反応はどう変わる？」など。これは、将来を予測したり、複数の可能性を検討したりする能力を養います。
ポイント: * 突飛な仮説でも構いません。重要なのは、仮説を設定し、そこから論理的に結果を導き出そうとする思考プロセスです。 * 身近なニュースや出来事をテーマにしても良いでしょう。
4. 抽象化・具体化の思考練習
目にした風景や、耳にした会話、読んでいる記事の内容などを、「それは結局どういうことか？」と抽象的に捉えたり、「具体的にはどういう例があるか？」と考えてみたりする練習です。例えば、ニュースで「働き方改革」という言葉を聞いたら、「抽象的に言うと、労働時間や場所の柔軟化、多様な働き方の推進」と考え、「具体的には、テレワーク、フレックスタイム、副業解禁など」と例を出す練習です。この行き来によって、物事の本質を捉えたり、応用範囲を広げたりする力が養われます。
ポイント: * 通勤中、周囲の観察をしながら行うと、より実践的になります。 * 普段使っている製品やサービスをテーマにしても効果的です。
5. 連想ゲームと思考のマッピング
特定のキーワードやテーマから出発して、そこから連想されるあらゆる事柄を思考の中で繋げていく練習です。例えば、「イノベーション」という言葉から、「新しい技術」「顧客ニーズ」「リスク」「失敗」「成功事例」など、関連する単語や概念を広げていきます。さらにそれらの繋がりを意識することで、思考の幅を広げ、アイデア発想や問題の原因究明などに役立てることができます。心の中でマインドマップを作成するイメージです。
ポイント: * 最初は何でも良いので関連することを自由に連想することが大切です。 * 後から繋がりを意識することで、思考の構造化に繋がります。
ウォームアップを継続するためのヒント
これらのウォームアップ術は、毎日行う必要はありません。週に数回、短い時間でも意識して取り組むことが重要です。満員電車の中でじっくり考えるのが難しければ、比較的空いている時間帯や、駅までの短い距離を歩いている時間などに限定して行うのも良いでしょう。
また、思考の内容を全て記憶しておく必要はありません。特に重要だと感じたアイデアや問いは、スマートフォンのメモ機能や音声レコーダーを活用して記録しておくことをお勧めします。後から見返すことで、さらに思考を深めたり、具体的な行動につなげたりすることができます。
まとめ
通勤時間は、移動するだけの時間ではなく、脳を活性化させ、日々の問題解決能力を高めるための貴重な機会となり得ます。今回ご紹介した「今日の問い設定」「簡易ブレインダンプ」「仮説思考」「抽象化・具体化」「連想ゲーム」といったウォームアップ術は、通勤中でも手軽に実践できるものです。これらの習慣を身につけることで、本格的に思考が必要な場面で、よりスムーズに、より質の高い思考を行う準備が整います。ぜひ、今日の通勤から一つでも取り入れてみてはいかがでしょうか。