通勤中に「迷わない」ための判断力トレーニング
通勤時間は、多くのビジネスパーソンにとって日々のルーティンの一部です。この限られた時間をただ移動に費やすだけでなく、自己成長、特に「判断力」を鍛える機会として活用することが可能です。日々の業務や生活において、私たちは様々な判断を迫られます。その質は、仕事の効率や成果、さらにはキャリア形成にも影響を及ぼします。
本記事では、通勤時間という特定の環境下で、どのようにして脳の判断力を高めるトレーニングを行うかについて、具体的な方法と脳科学的な視点を交えて解説します。
通勤時間が判断力トレーニングに適している理由
通勤時間は、多くの場合、外部からの中断が比較的少なく、一定のリズムの中で思考を巡らせやすい環境です。また、移動という身体活動を伴いながらの思考は、脳の活性化に繋がる可能性も示唆されています。さらに、限られた時間であるため、思考をコンパクトにまとめる練習にもなります。
このような特性を持つ通勤時間は、意識的に活用することで、判断力の向上に向けた有効なトレーニングの場となり得るのです。
判断力を司る脳の働きと基本的な考え方
私たちの判断や意思決定には、主に脳の前頭前野（ぜんとうぜんや）と呼ばれる部位が深く関わっています。この部位は、論理的な思考、計画立案、意思決定、感情のコントロールなどを司る、脳の司令塔ともいえる機能を持っています。
また、認知心理学においては、人間の思考プロセスには大きく分けて二つのシステムがあると考えられています（システム1とシステム2）。
- システム1: 直感的で速い思考。経験や感情に基づき、素早く判断を下します。エネルギー消費が少なく、日常的な多くの判断に使われます。
- システム2: 分析的で遅い思考。論理や推論に基づき、熟考して判断を下します。エネルギーを消費し、複雑な問題解決に使われます。
効果的な判断を行うためには、状況に応じてこれら二つのシステムを適切に使い分けることが重要です。通勤時間を利用して、意図的にシステム2を使う練習をすることで、より深く、多角的に物事を考える力を養うことができます。
通勤中に実践できる判断力トレーニングの具体的な方法
ここでは、通勤時間を利用して手軽にできる判断力トレーニングの方法をいくつかご紹介します。
1. シミュレーション思考法
日々の業務や個人的な課題の中から、具体的な判断が求められるシチュエーションを一つ設定します。「もし自分が〇〇のプロジェクトリーダーだったら、A案とB案、どちらを選ぶべきか？」「明日の会議で、あの質問に対してどう答えるのが最適か？」など、具体的な問いを設定します。
そして、通勤中にその問いについて深く思考します。各選択肢のメリット・デメリット、潜在的なリスク、必要な情報、考えられる結果などを多角的に検討します。実際に情報を集めることは難しいかもしれませんが、頭の中で情報を整理し、論理的な繋がりを構築する練習になります。
2. 情報の取捨選択＆要約練習
ニュース記事やポッドキャスト、オーディオブックなど、通勤中にインプットする情報を使ってトレーニングを行います。一つの情報源から、最も重要だと思われる情報を3つだけ選び出す練習をします。なぜそれが重要だと判断したのか、その根拠も合わせて考えます。
次に、選んだ情報を基に、内容を簡潔に1〜2分で説明するとしたらどう要約するかを思考します。これは、情報のコアを捉え、不要な情報を削ぎ落とす判断力を養うのに役立ちます。脳は入力された情報から必要なものを効率的に処理しようとしますが、この練習によりそのプロセスを意識的に鍛えることができます。
3. 「立ち止まる思考」の練習
即断が求められる場面でも、一拍置いて冷静に考える習慣をつけるための練習です。通勤中に、ある出来事や情報に触れた際に、「これは本当に正しいのか？」「他にどのような可能性や解釈があるか？」と意図的に疑問を投げかけてみます。
例えば、ニュースで特定の出来事が報道されているのを聞いた際に、「この報道の背景には何があるのだろう？」「別の視点から見たらどう考えられるだろう？」と考えを巡らせます。すぐに結論を出さず、複数の可能性を検討する「保留する力」は、衝動的な誤った判断を防ぐために重要です。これは、前頭前野の抑制機能を鍛えることに繋がります。
4. 日常的な選択を意識化する
通勤中の些細な選択（例：どのルートで帰るか、今日のランチは何にするか、どのプレイリストを聞くか）に対しても、少し立ち止まって考えてみます。「なぜこのルートを選ぶのか？（早い？景色が良い？運動になる？）」「今日の気分や体調に合うランチは？」など、普段無意識に行っている選択に理由をつけてみます。
これにより、日常的な判断プロセスを意識化し、自分自身の思考パターンや価値観を理解する手助けとなります。小さな判断の質を高めることは、大きな判断にも良い影響を与える可能性があります。
継続のためのヒント
これらのトレーニングは、一度行っただけで劇的な変化が現れるものではありません。通勤時間を活用した判断力トレーニングは、日々の継続が鍵となります。
- 具体的な時間を決める: 通勤時間のどの部分をトレーニングに充てるか、事前に決めておくと習慣化しやすくなります。
- 無理のない範囲で: 最初は5分でも構いません。慣れてきたら少しずつ時間を延ばしてみましょう。
- 記録をつける: どのような問いについて考えたか、どのような判断を下したか（シミュレーション上で）などを簡単なメモに残すと、思考の軌跡を振り返ることができ、自身の判断傾向を分析するのに役立ちます。
通勤時間は、単なる移動時間ではなく、あなたの脳を鍛え、判断力を磨くための貴重な機会です。今日からご紹介した方法を一つでも取り入れ、「迷わない」ための思考力を高めていきましょう。